映画紹介・スタッフ

教育研究者・大田堯さん

教育研究者・大田堯の挑戦

ふと我にかえると、現実は無機物に囲い込まれた荒涼たる世界を、愛に飢えた人影がバラバラに生きている。そういう風景が幻のように見えるのです。私はその現実の中に垣間見えるかすかな光への道を手さぐりで求めようとしました。それは夢のようなもの、あこがれにすぎないのかもしれません。でも、そのあこがれ、夢なしには私にはどう生きるかの手がかりを見出すことはできないのです。その手がかりを見つけるために、私は自然から預かった生命という摩訶不思議なものに注目してみました。(大田堯著「かすかな光へと歩む」より)


オフィスStory.1 【挫折したエリート】
一兵卒として体験した戦争。そこで待っていたのは36時間の生と死が交錯した漂流。生きる力を試されたジャングル生活。生活に根ざした知恵と力を身につけた農民兵、漁民兵などの労働者との出会い。ズタズタにされたプライド。「俺は一体、何のために生きているんだ!」


戦後の民衆の学校づくり教科書Story.2 【再生へ】
敗戦直後、さまざまな職業の住民参加の中で取り組んだ“民衆の学校”づくりとその挫折。そして、自ら働く人たちのなかに飛び込んでいった共同学習―それは村の「不良青年」と生活を共にし、学ぶことを通して、初めて心と心が通った学習体験だった。


紙芝居Story.3 【無縁社会と呼ばれるなかで】
社会も教育の姿もガラリと変わった高度経済成長時代―国を被告とする家永教科書裁判、そして、人間の絆が断ち切られる孤独化現象。大田堯の人生は戦後と真正面から向かい合っていく。そのなかでつかんだ教育とは、「教え育てる」という従来の教育観を根底から覆すものだった。そして大田はいま、自然の摂理にそった生命あるものの絆の再生をめざす。


oota大田堯プロフィール
教育研究者。東京大学名誉教授、都留文科大学名誉教授。日本子どもを守る会名誉会長。東京帝国大学文学部卒業。東京大学教育学部教授、日本子どもを守る会会長、都留文科大学学長、日本教育学会会長などを歴任。専攻は教育史、教育哲学。93歳の現在も、講演や執筆にエネルギッシュに取り組んでいる。広島県出身。
主な著作は「かすかな光へと歩む」(一ツ橋書房)、「教育の探求」(東京大学出版会)、「教育とは何か」(岩波新書)、「地域の中で教育を問う」(新評論)、「子は天からの授かりもの」(太郎次郎社)、「生命のきずな」(偕成社)「子どもの権利条約を読み解く」(岩波書店)ほか多数。

●大田先生からのメッセージ蟷螂の斧


mori yasuyuki監督 森 康行 
1950年静岡県生まれ。1978年、短編の文化映画『下町の民家』(東京都の制作)で初監督。以後、数多くの短編記録映画を生み出すと共に、テレビ・ドキュメンタリーの演出をてがけている。主な作品は、1990年、被ばくの問題を現代の視点で考えようとする高校生を描いた 記録映画『ビキニの海は忘れない 、1994年、郷土史をひも解く中で朝鮮人強制連行の足跡に出会う高校生が大きな歴史の流れを問い直す記録映画『渡り川』、2003年、夜間中学の学びをみつめた記録映画『こんばんは』など。


≪スタッフ解説≫
題名の「かすかな光へ」は谷川俊太郎の同名の詩から名づけられた。また、この詩の朗読は詩人自ら行っている。音楽監督は、「裸の島」「一枚のハガキ」(新藤兼人監督作品)など、多くの映画音楽をてがけている林光。編集は、森の21年前の監督作品すべてにかかわっている古賀陽一が担当した。


≪スタッフ一覧≫
製作・著作:ひとなるグループ/監督:森康行/音楽:林光/詩:「かすかな光へ」作・朗読 谷川俊太郎/ナレーション:山根基世/朗読:津嘉山正種ほか/ 撮影:西島房宏、前川光生、川越道彦、野間健、梅林國男/編集:古賀陽一/音響効果:八重樫健二/録音:東京テレビセンター 宮澤二郎、深山郁磨 /2011年/84分/DV/4:3/カラー/日本/ドキュメンタリー/配給:ウッキー・プロダクション